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安川幸聖理さんの個展 神話としての截金 [アート]

先日、安川幸聖理(みまり)さんの截金art展を伊勢丹新宿本店アートギャラリーで拝見しました。
 流木・古木に施された截金(きりかね)は、まるで密かに語られる神話のようでした。

 截金(きりがね)は細く切った、まるで糸のような金箔を素材に貼り文様を表現する技法で、仏像の文様を描き出す技として日本に伝えられました。
法隆寺金堂の四天王像、東大寺戒壇院の四天王像にはこの截金が施され、その後も仏教美術の表現技術として華やかな世界を演出してきましたが、その世界は例えば彩色などに比べると、細々として伝えられてきたに過ぎません。

 細々と、と書きましたが、それは仏像の世界に留まっていたからで、ここに来て截金は工芸の世界で注目される存在になりつつあります。その世界を切り開いたのが人間国宝・江里佐代子さん。京仏師江里康慧師に嫁いだ江里佐代子さんは仏像装飾の截金からスタートし、工芸の世界で截金を一分野として完全に確立させました(江里佐代子さんは今秋・銀座和光で久しぶりの個展をご主人の京仏師江里康慧師と共に開催します。案内も頂いており、今からとても楽しみです)。

 截金作家の安川幸聖理さんは一九七五年生まれ。父上は宮絵師・安川如風師。安川如風師は、京都における彩色の第一人者として知られている方で、僕自身お伺いするのを楽しみにしている一人です。とても楽しく、いつも本音で話す方です。

幸聖理さんは一九九九年に成安造形大学デザイン科を卒業。専門は住環境。在学中から父・如風師の工房で截金を学び、卒業年にはすでに截金art展を京都で開催しています。

  これまで截金は一定の規律の中で表現されてきました。それは仏像という決まり事の多い世界を装飾する技としては当然のことでしたが、現在では古典として仏像装飾という世界を離れ、作者の世界観を表現する装飾技術としてその世界を広げつつあります。江里佐代子さんはその第一人者です。

 幸聖理さんは、大枠でいえば截金の世界の一翼を担っていますが、その世界は、截金が自らを縛ってきた「規律」という引力から離れたところでの表現を目指しているようです。それは幸聖理さんが流木・古木民具という不規律(イレギュラー)なものを素材とすることで生まれてきています。

 流木や家財として使われてきた流木や古木民具は、神話やおとぎ話のような存在です。なぜなら、新しく作られる存在ではなく、それを作り出すための長い時間の堆積を必要とするからです。そこに截金が施されることで、流木や古木民具は突然、人を魅了する物語となります。

 彼女の作品の印象は地中深く掘った所で出会う金鉱脈のイメージ。時間の膨大な堆積の中で光る金鉱脈、それが流木に描かれた幸聖理さんの截金です。これから彼女が、どのような鉱脈を掘り当てて行くのか、楽しみにして行きたいと思います。

(幸聖理さんの表記に謝りがありましたことを深くお詫び申し上げます。10月25日訂正)


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