SSブログ

司馬遼太郎が見た韓国(1) 李氏朝鮮時代の停滞 [雑感]

昨年末、仲間内の同人誌(非売)に掲載した一文を掲載することにする。

僕は大学生の時、司馬遼太郎の輪読と歴史を学ぶサークルに所属していて、
さんざん司馬の本は繰り返し繰り返し読んできたつもりであるが、
今回、出雲のことを調べる必要から、司馬の著作を読み返し、
司馬が韓国の農村の停滞のことに繰り返し触れていることに気付いた。

司馬自身は大阪の出身であり、在日の文化人達の交流も無数にあり、
彼自身の韓半島に対しての意識は
今どきのヘイトスピーチと異なり、
歴史家としての見方、それも温かみを持った内容だ。

司馬の韓国に対しての見方は
李氏朝鮮の時代が、近代の中における停滞を招いた、
という一言に尽きる。
そして、日韓併合に対しては否定的で
日本が帝国主義に走ったことに対しても否定する。

一方で嘆くことは、
両国にお互いの歴史文化を研究する人材の少なさだ。

といことを前提に読んで頂ければと思う。


 

 今年の五月、出雲大社の権宮司千家国麿さんと、高円宮親王のお嬢さんの典子さんが結婚されたことを聞いて、「確か、司馬遼太郎はどこかで、出雲大社には天孫と伊勢神宮を呪う言葉が伝わっていると書いていたのでは。神話の時代からの仲違い関係では」と驚いてしまった。
 司馬遼太郎の手持ちの著作の中に、そのことが書いてあるのではないかと探してみたが、肝心なことは分からず、結局分かったことは自分の思い違いだ。
 千家さんは天孫たる天穂日命の子孫。天穂日命は天照大神の子供で、出雲国の平定に使わされながら、出雲の神々の接待に完全に酔ってしまい、うかつにも三年間も自分の使命を忘れ惚けてしまったという神様なのだが、天孫の系譜を持つ国麿さんと天照大御神の系譜を持つ典子さんは、神話時代から続く遠縁だ。

 出雲に関しての著作、「生きている出雲王朝」(文庫『歴史の中の日本』に収録・初出1961年)と「街道を行く・砂鉄の道」をつらつら読みながら、もう一つ分かったことは、司馬遼太郎が、韓国の農村の停滞のことを、繰り返し繰り返し記していることだ。どうして出雲と韓国の停滞が結び付くのかと言えば、鉄器のあり方が、日本と韓国の歴史のあり方を左右したという司馬史観によるものだ。
 というわけで、『街道を行く』の「韓のくに紀行」と「耽羅紀行」も読んでみることにした。
『街道を行く』の「韓のくに紀行」の週刊朝日への掲載は1971年の夏から翌年の冬のことである。その後随分経ってから「耽羅紀行」を1986年に掲載している(耽羅とは済州島のこと)。

 司馬遼太郎は「砂鉄の道」の道で「数年前に韓国の農村を歩いて感じたことは、農具のすくなさである。」(現行文庫版215頁)と記す。出雲の製鉄をテーマにした「砂鉄の道」は1973年の掲載で、「数年前に韓国の農村を」とは、「韓のくに紀行」の取材に外ならない。
 日本の道具はと言えば 「明治維新前後にははすでに一道具一目的、たとえばタケノコ掘りのみに使うクワといったように、多様な農具を一軒の家で持ち揃えていた」(同221頁)と司馬遼太郎は比較し、日本は鉄が安価に出回ったおかけで、農業の生産力が上がり、一軒の農家が、非生産者、例えば武士や芸能をする人などを養い、文化を発展させたとする。
「韓国には、かつて、灌漑用の水車を自力で作るだけの技術が無かった」ということを読んだことがあるが、桶を作ることなく、ひさごを二つに割った道具で水を汲んでいる、と司馬は指摘するのだ。
「ごく最近まで朝鮮での手桶というのは、自然物であるヒサゴであった」(同223頁)。

 桶だけではなく、日本では道具が異常にまでに発達している。刃物に関しては、僕自分自身の経験でも、木工現場に行けば無数のカンナ、鑿は当たり前、錺金具の工房に行けば、それも三代続く職人の家であれば数百本から千本単位の鏨を持つこともある。精密な道具、建築、工芸の水準が日本では当たり前に高い。かといって、韓半島や中国に精密な工芸が無いわけではなく、中国について言えば、王朝のお雇い職人が作り出す工芸は、神宇宙の領域のものもある。

私はかつて韓国の農村ばかりを歩いたとき実感としては、それが旅行者としての私のよろこびだったが、日本の律令時代の農村に、タイムマシンでもって逆もどりしているような印象であった」(砂鉄の道 245頁)

「前記の私の韓国への旅は一九七一年五月である。その時の農家では、見た限りにおいて電灯はないにひとしかった。(中略)このこととは日本帝国主義のせいかと思ったりしたが、よくきいてみると、あの悪しき総督府でさえ電灯をつけることを農村にすすめたそうである、が、農村は動かなかった。厳密には農村の好奇心が動かなかったというべきであろう」(砂鉄の道 246頁)

続く

nice!(0) 

nice! 0

nice!の受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。